(1) クレームの原因とクレーム処理の重要性
宿泊・観光施設のスタッフが万全の注意を払って、外国のお客様に接遇したつもりでも、クレームを招くことがあります。それらのクレームの原因は様々ですが、日本と諸外国の文化・習慣の違いの他、コミュニケーション不足によるものが最も多いといわれています。
例えば、日本では日常ごく自然に行われていることでも、外国人にとってはタブーであったり、不満を感じたりする場合があります。また、説明不足だったり、明確な意思表示ができなかったためにトラブルへと発展する場合もあります。ですから文化や習慣の違いを考慮して行動することが大切なのです。
クレーム処理の良し悪しは、ただ単にその宿泊・観光施設の問題だけではなく、諸外国からの日本の評価、真価が問われる問題でもあります。日本の国際化という視点からも、然るべき対応が求められているという認識をもつ事が重要です。
(2) クレーム処理の基本的な心構え
外国人のお客様に対するクレーム処理の方法は、宿泊・観光施設やお店等によって異なります。しかし、クレーム処理の基本的な心構えは共通しており、どのような施設であっても、外国人だから特別ということはなく、とるべき態度があるはずです。
諸外国の文化・習慣を知ることも大切です。なかなか奥深く、難しいことですが、外国を紹介するパンフレットやガイドブック、紹介サイトに目を通すだけでも、少なからぬ成果があると確信しています。
そして、実際に外国人のお客様に接した時、一番大切なのは何なのでしょうか。もちろん語学力も必要でしょう。しかし、それ以上に謙虚で誠意のある対応をすることが何よりも大切なのです。
積極的にコミュニケーションをとろうという前向きな気持ちと、適当にその場を凌ぐような軽い気持ちの返事を絶対にしないという意識をもっていれば、外国人のお客様も必ず納得してくださることでしょう。
特に注意しなければならないことは、日本人特有の曖昧さでその場を逃れようとすることです。お客様とスタッフとの信頼関係のうえに成り立つ観光業界では、曖昧な対応は禁物です。
その場を逃れたいがためにいい加減な対応をすると、様々なクレームの原因になるばかりではなく、時には周囲の人を巻き込み迷惑をかけることにもなりかねます。規則や約款については、できれば外国語での分かりやすい掲示、表現をすることが、行き届いたサービスの第一歩と言えるのではないでしょうか。
(3) 宿泊に伴うクレーム内容とその対処法
■クレーム内容
・空室がなかったため予約を受けた部屋と違う高い料金の部屋へ案内したところ、お客様が怒ってしまった。
→クレームの原因とその対処方法
・これは完全に宿泊施設側の手落ちです。日本人のお客様でも怒りを覚えることでしょう。
・予約をして確認の取れている事はきちんと守るべきです。
・たとえ料金の高い部屋に案内しても、予約時に確認済みの料金を請求して納得していただくのが当然の努めです。
■クレーム内容
・代表者の名前だけしか確認していなかったので、外部からの宿泊客に関する問い合わせにお答えできなかった。
→クレームの原因とその対処方法
・チェックインの際、パスポートなどの宿泊者個々人の氏名の確認をきちんとしなかったことが原因です。
・個人、団体にかかわらず、外国からのお客様の場合、氏名やパスポート番号などをチェックした上、記録しておくことは基本中の基本です。
・特に団体のお客様の場合、全員の名簿リストを提出してもらうことが大切です。
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クレーム内容
・チェックイン後、部屋の料金が高すぎるというクレームを受けた。
→クレームの原因とその対処方法
・お客様に対して料金をきちんと確認、了解をとらなかったために発生したクレームです。
・当然、すでに確認してある場合は、正式の料金を請求して構いませんが、料金の確認がはっきりしない場合は、お客様の意見に耳を傾け、従うケースもあるでしょう。
■クレーム内容
・救急の場合の対応が不親切であると思われた。
→
クレームの原因とその対処方法
・日頃より急病人、けが人への対策がとられていなかったために生じたものです。
・外国語の通じる周辺病院をリストアップする、また緊急事態に備えた演習、マニュアルの作成などを行っておくことが必要です。これは防犯、防災についても共通することです。
■クレーム内容
・到着予定時刻までにチェックインをしなかったためキャンセル扱いをしたところ、4時間ほど遅れてお客様が来られた。部屋は既に満室で、クレームを受けた。
→クレームの原因とその対処方法
・到着時刻の変更や遅れの場合に、「事前にお客様より電話等で連絡がない場合はキャンセルになります」と事前にお伝えしていたかかどうかがポイントとなります。
・お客様にその旨が伝わっていなかった場合は、近所の宿泊施設を含め、部屋をすぐ用意することなど、誠意ある対応が必要です。
■クレーム内容
・お客様を部屋へ案内したところ、部屋の臭いが気になるとクレームを受けた。
→クレームの原因とその対処方法
・外国からのお客様の場合、臭いに敏感な方も多く、意外に件数の多いクレームの一つです。
・また、クレームを受けた場合の即座の対応策として、消臭スプレーなどを常備しておくことが必要です。
(4) 飲食業におけるクレーム内容とその処理方法
■クレーム内容
・団体で利用されたお客様に、料理の出るのが遅いと言われた。
→クレームの原因とその対処方法
・団体のお客様の場合には観光スケジュール、飛行機、バス等の出発時間が決められていることが多く、料理の用意が遅れると、当然その後のスケジュールに支障が生じるため、クレームとなります。
・特に外国のお客様が帰国される時は、国際線を利用するため、時間に神経質になっています。調理場との連絡をこまめにとり、料理を早く出せるよう配慮することが必要です。
■クレーム内容
・注文した料理がメニューの写真と違うというクレームを受けた。
→クレームの原因とその対処方法
・付け合せの野菜が写真と異なる、スープやサラダの量が納得いかないといったものです。
・これは、外国のお客様に限らず、合理的に物事を考える人にとってはサンプルと出された料理が異なれば、納得がいかないのは当然です。
・「写真とは実際に異なることがありますのでご了承下さい」とメニューに説明文を載せておくことです。
■クレーム内容
・食事の席にお客様をご案内したところBGMが大きすぎるという指摘を受けた。
→クレームの原因とその対処方法
・料理の内容はもちろん、食事をする環境にも気配りが要求されます。「BGMが大きすぎる」「照明が暗すぎる」「空調が冷えすぎる」などのクレームは日本人よりも多いといえましょう。
・責任者が丁重にお詫びをするとともに、お客様のご要望に添うお席に、了解をとった上で、移動していただくことも必要でしょう。
■クレーム内容
・勘定(請求)の内容が実際と違うといわれた。
→クレームの原因とその対処方法
・お勘定の請求項目を確認することは、お客様として当然のことです。殆どの場合、項目一つ一つをお客様に確認することにより納得していただけます。
・忙しいことを言い訳に曖昧な返答をしたり、無責任な態度をとることは絶対に避けなければなりません。
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